桃山学院大学07期生の下村優介さんは、繊細で力強い切り絵作品で国内外から注目を集めるアーティスト。大学卒業後、一度は飲食業に身を置きながらも「絵が好き」という思いを手放さず、独学で切り絵の世界へ。現在ではワークショップや個展を海外でも展開し、多くの人々を魅了しています。
この度、同窓生のご紹介により、桃山学院大学和泉キャンパスで取材させて頂きました。
当日は、吉田先生の授業内で下村さまが講義を持たれ、その後1号館303教室をお借りしてインタビューをさせて頂きました。
その様子をYouTubeに動画をアップいたしましたので是非ご覧ください。
「紙一枚に命を吹き込み、人の心に届く作品をつくる。」
YouTubeアドレス https://youtu.be/UTP2I-IJaNk
■ 桃大へ導いてくれたのは「ラグビーの先輩」
Q:桃大に入られたきっかけは?
下村様(以下A):僕の実家は桃山学院大学の近くにあります。周りは桃高も含めてエリート校ばかりでしたので高校はその頃就職率の高かった都島工業高校に進学しました。4人兄弟だったので卒業後は働くつもりでいましたが、母親から『大学くらい行ったら?』」という一言で、子供のころから興味のあった美大に挑戦しようと思い、入試の模範解答を見たりしましたが、デッサンの試験もありこれは無理やと諦めました。そんな中、ラグビー部の先輩の『桃山はええ大学や!ええ大学や!』(笑)という熱烈な勧めがあり、AO入試で桃大に入りました。英語の補習を受けながらの入学でした(泣)。でも、ラグビー部では上下関係があまり厳しくなく、真面目に楽しく続けられたのがとても良かったです。交友関係もほぼラグビー部中心でしたね。
■「絵を描くこと」が好きだった少年が切り絵作家になるまで
社会人として働きながらも「やっぱり絵が描きたい」という想いが募っていきました。たどり着いたのが“切り絵”という表現手法。
Q:私の子供の頃の(かなり昔ですが)切り絵のイメージは、舞台で体を動かしたり喋ったりしながら紙を切られてるイメージでした(笑)
A:漫談しながらでしょう?(笑)そういうイメージを持たれている方は多くて、そういう方が僕の作品を見て下さったら驚いてくださいます。
美大にも切り絵専攻ってないんですよ。だから多くの切り絵作家は独学。僕の場合は、美術の基礎すら学ばずに始めたので、本当にゼロから。だから“完全独学”と名乗っています。
作品は、和紙1枚を使って丁寧に切り抜いていくスタイル。市販の和紙を使い、1日12時間以上ひたすら紙を切る日々を送っているといいます。
■ “人とのつながり”が、海外活動への第一歩に
Q:海外でワークショップをしたり個展をされていますがどんなきっかけがあったのですか?
A:初めて海外で活動したのは2014年、ニューヨーク。ご近所のタップダンサーから「修行に行くけど一緒に行かへん?」と誘われ、勢いで「行く!」と即答しました。周囲にも“ニューヨークに行きます!”と宣言して逃げ道をなくしました(笑)。その後、日本語学校の方が“1コマあげるから図工教室をやってみたら?”と切り絵教室のきっかけを作ってくれて。
それを皮切りに、マドリッド、アリカンテ、ベルギー、フランス、ドイツ、スイスなどヨーロッパへと活動が広がっていきました。海外ではたいてい約2か月滞在しています。
全部、人とのつながりがきっかけ。切り絵を通していろんな人と出会えるのがすごく嬉しいですね。
■ 作品は“動き”と“感情”を宿す
下村さんの作品には、独特の躍動感があります。特に動物を題材にした作品が多く、そこに人間的な表情やしぐさを投影しています。
Q:どういう時にインスピレーションが湧いて作品に繋がっていくのでしょうか?
A:ぱっと浮かぶものではないです。下絵を描く前の段階で全体の構図を考えるのが一番時間がかかるのですが、考えながら進んでいくことも多いです。1点動物だったら、その動物をどういう顔にするとかを下絵の段階で考えながら描く。切りながら考えるのはまずないです。切り絵の何割かは下絵で終わっています。
動かない風景や花を描く作家さんが多い中で、僕は“動いている”ように見える切り絵を作りたい。だからあえて一色の紙を使って、裏から色を貼ったりせず、構図と表現力で勝負しています。
また、切り絵作家として大切にしているのは「技術を見せすぎない」ことです。
細かい切り方を極めすぎると、ただの“すごい人”になってしまう。それってアートではなくなるかもしれない。だから“1切り”で表現できることが究極だと思っています。
photo by AkaneKiyohara
photo by AkaneKiyohara
2015年には、桃山学院大学の同窓会誌『アンデレクロス』にも登場していた下村さんですが、その頃と今を比べてどう感じているのか尋ねると・・・
A:あの頃はまだ悪あがきしてましたね(笑)。でも今は、作家として少しずつステップアップして、活動の幅が当時では想像できないほど広がっていますし、10年間続けてきて本当に良かったと思えます。
今では大学の講義にもゲストとして呼ばれるようになり、自信を持って「切り絵作家」と名乗れるようになったそうです。
A:具体的には、紙以外の素材に挑戦してみたいです。鉄やプラスティックなどの異素材、それらを切るレーザーカッター。手作業の価値は残していきたいですが、新しい技術も取り入れたいです。紙はどうしても屋外に弱いので、新しいものを取り入れながら屋外の公共空間に作品を設置するモニュメントの制作もやってみたいです。切り絵の可能性を広げていきたいですね
さらには、アフリカでのワークショップ開催も夢のひとつ。アフリカや東南アジアなど、文化的に「紙を切る」習慣がある地域で、現地の人々と切り絵を通して交流したいです。
問題は、自分から売り込みに行くのは苦手なんです。でも、こうやって大学や人とのつながりから広がっていくのがすごく嬉しい。これからも切り絵を通して、いろんな人と出会いながら、自分の道を広げていきたいと思っています。
Q:子供の頃の「描くのが好き」は形は少し変わりましたが実ったと言えますね。このままずっと続いていきそうですか?
A:辞めることはないですが、切り絵というのは凄くしんどいんです。筆圧(カッターの圧)がかかるし疲労感があります。しかし長くラグビーをしていたおかげで体の基礎が出来ていて、今のところ不具合はないです。
しかし今は30代ですが、50―60代で出来るかなと不安があるので、その時はその時で活動の仕方を考えたらいいかなと思っています。
ベースとして切り絵は持っておきたいです。それをずらさず進化していきたいですね。
まだ自分では見えていないですが。
Q:「アートで社会貢献したい」と仰っていましたが、目に見える形で、誰かの心に残る作品を届けたいという気持ちですね。
A:したいです! 社会の歯車になりたいです。自分の作品が誰かの役に立ったり、喜びにつながったというのが目に見えて何かに残せたらいいなあと思います。例えば壁画とか、建築家だったら建物を残せるように、僕も作品をどこかに残せたらいいなあと思っています。その人たちを辿っていけば誰かの役に立ってるといいなあと。
Q:ステンドグラスが卒業生の作品として学校に飾られていますが、下村さんの作品はどこかに展示されていますか?
A:それがまだ所蔵して頂いていないので、是非どこかに展示して頂けるようお願いしたいです。僕自身も切り絵を通して桃大に関われたらいいなあと。残していけるもの、学生に直接目に触れるものとして、桃大にも僕の作品を飾ってもらえたら嬉しいです。“桃大の卒業生でこんな人がいるんだ”と思って貰えたらとても嬉しいです。
Q:下村さんにとっては、作品がアイデンティティーですものね。それをどこかでしっかり見てほしいですね。
A:わかりやすい何かが一つでもあれば、『どういうことをしてる人?』『あれを作ったのは桃大卒業生で・・・』と、是非やらせて下さい!!
Q:クライアントワークとして、とても素敵な切り絵のラベルの付いたワインを見ました。
A:若い酒造さんが依頼して下さって協力させて頂いています。その方もアーティスティックな考えをお持ちで、最初そのコンセプトをなかなか理解できなかったです。その方も元々美術が好きで、お酒に対してしっかりしたコンセプトを文章にしてこられて、このコンセプトに沿ったラベルを作ってほしいと。そのコンセプトがとてもしっかりしているので取り組み方が難しかったのですが面白く貴重な経験になっています。
Q:やりがいがありますね。そのコンセプトがしっかり入ったラベルのおかげで販促にも繋がったでしょうね。オブジェとして飾っておくのも素敵です。
A:SNSでとても良い評価を頂いているようです。
Q:作品を切っている時は12時間くらいぶっ通しでやっているとの事でしたが、仕事をしていないときは何をされていますか? リラックスできることは?
A:仕事が終わるのがいつも夜中の12時頃。12時からランニングしています。それをした方が次の日寝起きがいいです。その後帰ってから本を読んだりお酒を飲んだり、スペイン語を勉強したり・・でもあれもこれもしようとすると何もできなくなってきて、今は個展に向けて準備しているのでだんだんしんどくなってきました。
Q:本を読むのは“慣れないと読めない”と仰っていました。
A:全部を頭に入れようと思うから何にも頭に入ってこない。速読スタイルで間を追ってる感じです。
Q:どんなジャンルの本を読まれるのですか?
A:僕小説が読めない人です。登場人物がわからなくなって“誰やったっけ、こいつ”となる。でも、伝記とか美術史、世界史は読みやすいです。私にとっては知らないといけないジャンルですし、一回筋が解ってくると楽しくなってきます。美術館や博物館は美術史を読んでいるともっと楽しくなります。
Q:とても興味深い楽しいお話をたくさんお聞かせ頂きまして有難うございました。最後にPRされたいことありますか?
A:「下村優介 切り絵展」を開催いたします
2025年7月16日(水)→7月29日(火)
会期中無休 / 入場無料 10時~20時(最終日は17時まで)
大丸梅田店 11階 アートギャラリーウメダ
〒530-8202 大阪市北区梅田3-1-1
☎ 050-1780-0000 (代表)
同窓生の皆さま、是非ご家族、お友達とご一緒にお立ち寄りください!